宮島を訪れる度に、季節ごとに異なる表情を見せる景観に心を奪われる方も多いのではないでしょうか。春の桜、夏の海上花火、秋の紅葉、冬の牡蠣料理。これらの季節の魅力は、実は長い歴史の積み重ねによって生まれたものです。
宮島の四季の見どころは、江戸時代から続く計画的な景観づくりと、地域の人々の努力によって形作られてきました。約1900本の桜は江戸時代に観光名所として植えられ、紅葉谷は戦後の壊滅的被害から復興し、牡蠣養殖は室町時代から続く伝統産業として発展を遂げています。この記事では、宮島の四季それぞれの魅力がどのように育まれてきたのか、その歴史的背景とともに詳しく解説します。

宮島の四季を彩る自然と文化の歴史
春の桜が彩る景観づくりの歴史
宮島の春を代表する桜は、実は江戸時代に計画的に植えられたものです。桜の木やもみじは、当時外来種として持ち込まれ、観光名所となるよう意図的に配置されました。江戸から明治時代に描かれた厳島案内図には、桜の美しさを意識してピンク色が塗られ、大元神社や紅葉谷が観光スポットとして紹介されていました。
現在、宮島には約1900本の桜があり、その多くはソメイヨシノです。他にもヤマザクラ、ヤエザクラ、シダレザクラ、オオシマザクラなど多様な品種が植えられています。満開の時期は例年4月上旬で、多宝塔周辺から大元公園、藤の棚から大聖院にかけてが特に美しい名所として知られています。
江戸時代の人々は、すでに「世界遺産×歴史×桜」のコラボレーションを意識した景観づくりを行っていたのです。誓真大徳碑のある広場には桜の木がたくさん植えられ、名所として有名になりました。芸州厳島図会には、昔の人々が鳥居松のそばでお花見を楽しむ様子が描かれており、花見文化が庶民の生活に深く根付いていたことがわかります。
夏の水中花火大会の変遷と継承
宮島の夏を彩った水中花火大会は、1973年に始まりました。当初は町内会の夏祭りのような小規模なもので、花火も1000発程度、観客は地元住民ばかりでした。転機となったのは1982年、「夏休みに宮島の花火大会があるから里帰りしよう」という狙いから水中花火が導入され、現在の形態となりました。
船上で点火された花火が人の手で海上に投げ込まれる水中花火は、花火が開くたびに世界遺産・嚴島神社の大鳥居が幻想的に浮かび上がる光景が人気を呼び、2019年には島内に約5万人、対岸地区にも約25万人もの来場者が集まる一大イベントに成長しました。日本の花火大会百選にも選ばれ、宮島を代表する夏の風物詩となりました。
しかし、離島特有の安全対策の難しさから、2021年に約50年の歴史に幕を閉じました。2025年10月には「厳島水中花火大会」として新しい形で復活し、平和への願いと伝統文化の継承をテーマに、新たな歴史を刻み始めています。

秋の紅葉谷における災害からの復興
紅葉谷公園は、宮島を代表する秋の名所です。弥山の麓に広がるこの渓谷には約700本のもみじがあり、イロハカエデが約560本ともっとも多く、オオモミジ約100本、その他ウリハダカエデやヤマモミジ等が約40本植えられています。
この美しい景観の背景には、江戸時代の開拓と戦後の復興という二つの歴史があります。江戸時代に開拓されモミジの苗木が植えられたのが始まりで、当時の文献には「清き流れあり、樹木蒼古にて一区の幽境なり、楓樹多きを以って名とす」と紹介されています。明治時代には岩惣をはじめとする旅館が整備され、皇族や政治家、文化人などが訪れる名所となりました。
しかし1945年9月17日、終戦からわずか1か月後、宮島は枕崎台風の直撃を受けました。紅葉谷川の上流で発生した山崩れは土石流となって、紅葉橋、旅館、嚴島神社を次々と埋没させる壊滅的な被害をもたらしました。
1948年から2年間、8000万円の巨費を投じて災害復旧工事が行われました。この工事では「巨石、大小の石材は絶対に傷つけず、また割らない」「野面のまま使用する」という方針のもと、安全性の高さはもちろん自然に溶け込んだ美しい庭園が形造られました。この「庭園砂防」という画期的な技術は、戦後間もない物資不足の時代に行われたもので、工事に携わった人々の情熱を今に伝えています。

冬の牡蠣養殖と食文化の発展
宮島の冬を語る上で欠かせないのが牡蠣です。広島湾一帯では縄文時代から天然牡蠣が食べられていましたが、養殖が始まったのは室町時代からと伝えられています。宮島周辺の養殖については、1848年の文献に「厳島、浜役所にて試みに牡蠣を育養」との記録が残されています。
宮島近海の牡蠣養殖が発展した背景には、恵まれた自然環境があります。豊かな中国山地から注ぎ出る太田川の清流が湾に流れ、内海の海水と混ざることで、栄養価の高いプランクトンを繁殖させ、「牡蠣の自然のゆりかご」をつくってきました。特に世界遺産・宮島周辺は、ふくよかな汐が最も多く集まる海域として知られています。
江戸時代初期には牡蠣養殖業者によって大阪まで船で運ばれ直接販売が始められました。江戸時代中期には販路を広げ、船の上に座敷を設け牡蠣料理を食べさせる「かき船」が登場しました。幕末には牡蠣船で牡蠣を料理して食べさせることが流行し、明治時代には瀬戸内海沿岸はもとより九州や日本海沿岸まで進出し、数百隻に上ったと伝えられています。
現在、広島県は全国の牡蠣生産量の約6割を占め、宮島口周辺には創業300年以上の老舗養殖業者も存在します。1年を通して手入れをしっかりと行い、愛情を込めて作られているからこそ、大ぶりで甘みの強い絶品の牡蠣が生まれるのです。
季節ごとの見どころと最適な訪問時期
宮島の四季それぞれに、訪れるべき最適な時期があります。春の桜は例年4月上旬が満開の時期で、多宝塔の朱色とのコントラストが美しい撮影スポットとなります。誓真大徳碑周辺、光明院裏、御手洗川沿いの桜並木など、島内各所で桜と鹿という宮島らしい風景を楽しむことができます。3月中旬から4月中旬にかけて、夜間のライトアップも実施されます。
夏は新緑が美しく、厳島神社の管絃祭(旧暦6月17日)など伝統的な祭事が行われます。かつての水中花火大会は8月に開催され、約30万人が訪れる宮島最大の夏のイベントでした。2025年からは厳島水中花火大会として10月に開催されることになり、新たな秋の風物詩となっています。
秋の紅葉は例年11月中旬から下旬が見頃です。紅葉谷公園では約700本のもみじが一斉に色づき、清流・紅葉谷川に映る紅葉のグラデーションは圧巻の美しさです。近年は気候変動の影響で見頃が12月初旬まで続くこともあります。11月上旬から下旬にかけて、日没から夜間のライトアップが実施され、幻想的な夜の紅葉を楽しむことができます。
冬は牡蠣のシーズンです。10月から3月にかけて、島内の多くの飲食店で焼き牡蠣や生牡蠣、牡蠣フライ、牡蠣めしなど多彩な牡蠣料理を味わうことができます。宮島口周辺のかき小屋では、目の前の海を眺めながら新鮮な牡蠣を堪能できます。また、冬は観光客が比較的少なく、厳島神社や島内をゆっくりと散策できる穴場の季節でもあります。

現代に受け継がれる季節行事の価値
宮島の四季の魅力は、自然の美しさだけでなく、それを守り育ててきた人々の歴史があってこそのものです。江戸時代の景観づくり、戦後の復興事業、そして現代に至るまでの維持管理。これらすべてが、今日の宮島の四季折々の美しさを支えています。
特に注目すべきは、安全性と景観美を両立させた庭園砂防の技術です。紅葉谷公園の復興工事で採用されたこの手法は、防災と観光資源の保全を同時に実現する画期的なものでした。戦後間もない物資不足の時代に、巨石を一つも傷つけず、自然の形のまま使用して美しい庭園を作り上げた技術者たちの情熱は、現代の私たちにも大きな示唆を与えてくれます。
また、牡蠣養殖においても、室町時代から続く伝統を守りながら、現代的な品質管理や養殖技術の向上に取り組む生産者たちの努力があります。シングルシード手法という日本で初めて成功した技術により、一粒ひと粒に目をかけた丁寧な育成が実現しています。
宮島の四季は、単なる自然の移ろいではありません。それは、長い歴史の中で人々が自然と向き合い、調和を保ちながら育んできた文化的景観なのです。春の桜、夏の祭事、秋の紅葉、冬の牡蠣。これらすべてが、宮島という場所の歴史と文化を語る重要な要素となっています。
よくある質問
宮島の桜の見頃はいつですか?
例年4月上旬が満開の時期です。3月末から4月5日頃にかけてが最も美しい時期で、多宝塔周辺や誓真大徳碑、大元公園などが特におすすめのスポットです。夜間ライトアップは3月中旬から4月中旬まで実施されます。
紅葉のベストシーズンはいつですか?
紅葉谷公園の見頃は11月中旬から下旬です。特に11月23日の勤労感謝の日を中心とした時期が最も鮮やかです。近年は気候変動の影響で12月初旬まで楽しめることもあります。日没から夜9時までライトアップも行われます。
牡蠣料理が美味しい季節はいつですか?
牡蠣のシーズンは10月から3月です。特に冬場(12月から2月)は身が大きく、甘みが増して最も美味しい時期とされています。島内の多くの飲食店で焼き牡蠣、生牡蠣、牡蠣フライなど多彩な料理を楽しめます。
水中花火大会は今も開催されていますか?
かつての宮島水中花火大会は2021年に打ち切りとなりましたが、2025年から「厳島水中花火大会」として新しい形で復活しました。10月開催に変更され、平和への願いと伝統文化の継承をテーマにした花火大会として生まれ変わっています。
四季それぞれでおすすめの過ごし方は?
春は桜スポット巡りと厳島神社参拝、夏は新緑の中での弥山登山や管絃祭の観覧、秋は紅葉谷散策とライトアップ鑑賞、冬は牡蠣料理を堪能しながらの静かな参拝がおすすめです。それぞれの季節に異なる魅力があります。
季節ごとの観光客の混雑状況は?
最も混雑するのは春の桜シーズンと秋の紅葉シーズンです。特に週末や祝日は大変混み合います。比較的空いているのは冬の平日で、ゆっくりと島内を散策したい方にはこの時期がおすすめです。夏は新緑が美しく、混雑も中程度です。
まとめ
宮島の四季の見どころは、単なる自然の美しさだけではなく、江戸時代から続く景観づくりの歴史、戦後の困難な復興、そして現代に至るまでの地域の人々の努力によって育まれてきました。春の約1900本の桜は江戸時代に観光名所として計画的に植えられ、秋の紅葉谷は枕崎台風の壊滅的被害から画期的な庭園砂防技術によって復興しました。
夏の水中花火大会は半世紀近い歴史に幕を閉じましたが、新しい形で継承されることになり、冬の牡蠣は室町時代から続く養殖の伝統が現代まで受け継がれています。これらすべてが、宮島という場所の歴史と文化を物語る重要な要素となっています。四季折々に訪れることで、宮島の持つ多面的な魅力をより深く理解することができるでしょう。